14-1. 内在性遺伝子の発現状態を解析する
https://gyazo.com/c46126ed3d416a19ff66aa9dd02da825
https://amzn.to/2I6DMZu
https://gyazo.com/3a946d85f70154fc9d526b47c157ce4c
1) RNAやタンパク質の構造決定や同定の戦略
解析対象による種類
ゲノム構造を基盤とする遺伝子の発現と機能の解明は機能ゲノミクス(機能ゲノム学)という学問領域に含まれる
トランスクリプトミクス
細胞の全RNAを対象にする解析
プロテオミクス
細胞の全タンパク質を対象にする解析
memo: オームとオミクス
オーム -ome: 全体を表す接尾語
遺伝子 gene + -ome = ゲノム genome
転写物(RNA) transcript + -ome = トランスクリプトーム transcriptome
タンパク質 protein + -ome = プロテオーム proteome
オミクス -omics: オームの解析につけられる接尾語
解析規模による分類
個別試料に焦点を絞って分析する場合
RNAの場合であればcDNAに変換し、それをPCRや遺伝子組換え実験で増幅した後に塩基配列を決める
タンパク質であれば、分離・精製した個別タンパク質の一次構造をアミノ酸シークエンサーや質量分析(MS: mass spectrometry)で決める
網羅的かつ包括的に分析する場合
網羅的解析は膨大な数の試料を対象にするが、個別解析の単なる積み重ねでは実現困難なため、ハイスループット解析(コンパクト化、自動化、迅速化、大量試料の同時並列処理など)が必須となる
トランスクリプトミクスでは、小さなガラス板(チップ:chip)に数千〜数万種のDNAプローブを付けたDNAマイクロアレイ(DNAチップ)を使うアレイ技術(チップ技術)が用いられる
マイクロアレイとは微細な列状に並べられたものという意味
タンパク質の場合も、結合タンパク質の検索・同定で似たようなアプローチを取る場合がある
次世代シークエンサー(NGS)で膨大な数のRNA(cDNA)を同時並行解析するRNA-Seqもこの範疇に入る
既知か新規か
新規生物では新規解析(de novo解析)で全構造をシークエンス解析せざるを得ないが、既知生物の場合はデータベースの参照ゲノム配列が利用できるため、部分構造解析だけで分子種を同定できる
アレイ解析は典型的な後者の解析手法
memo: 細胞アレイ
細胞アレイは基盤上の微小多数区画に細胞を1個ずつ入れたもの
表面抗原などに基づいた細胞のハイスループット解析ができる
区画内の細胞を回収することも可能
医療分野では細胞のタイピングや薬剤感受性解析、細胞診断などに利用sれる
2) 特定のRNAの検出・解析・同定
RNAのまま検出する
抽出したRNAを電気泳動で分離し、その後既知プローブでノーザンブロッティングする方法が一般的
1種類の遺伝子しか解析できないが、RNAに関する多数の情報が得られる
発現量、前駆体、加工や分解、類似遺伝子発現の有無など
ハイブリダイゼーションと酵素消化によって検出する
一般的な方法はS1マッピング
原理
被験RNAにRI標識の既知DNAをプローブとしてハイブリダイズさせ、その後一本鎖核酸にS1ヌクレアーゼを効かせて特異的に分解する
RNAで保護されて分解されずに残ったプローブを、ゲル電気泳動・オートラジオグラフィーで検出する
https://gyazo.com/caa79134d656abe8e9b56a590f2bd500
操作の概要とポイント
プローブの範囲を、調べようとするRNA領域より広くとると、保護されて残った短いプローブが特異的シグナルとして検出できる
末端標識プローブを使うと、標識部分からの距離として転写の開始や終結部位、スプライシングの境界部位などを決定できる
類似した方法にRNaseプロテクションアッセイ
RNAをプローブとし、RNaseAやRNaseT1(これらはRNA-RNA二本鎖を切断しない)などを使用する
cDNAにしてから検出する
逆転写酵素でcDNAを合成し、RT-PCRを行い、PCR産物をゲル電気泳動で検出する
定量性を重視する場合はリアルタイムPCRを使ったRT-qPCRを行う
cDNAを二本鎖にしてプラスミドベクターにクローン化し、各々をシークエンスする
量の比較はできない
cDNAの直接シークエンシング(ダイレクトシークエンシング)も一般的な方法
蛍光色素標識基質を使って合成したcDNAをDNAチップ上の多数の既知DNAとハイブリダイズさせるDNAマイクロアレイ解析で、発現遺伝子(=DNA)を検出する
典型的なハイスループット解析
最近ではNGSを用いたRNA-Seqがアレイ解析に取って代わっている
3) RNAの網羅的解析
DNAマイクロアレイ法
原理
数cm四方以下の小さな基盤に多数の既知DNAを微細なスポット上に付けたDNAマイクロアレイに、蛍光標識した不特定多数のcDNAをハイブリダイズさせ、DNAに結合した標識cDNAの蛍光を顕微鏡的スケールで検出し、シグナルの位置からDNA種を同定する
https://gyazo.com/3f9e2456f54d2ab15350e3bd376945c4
この場合、基板上の既知DNAをプローブといい、溶液中の標識cDNA集団はターゲットあるいはキャプチャー
網羅的解析の場合はプローブでゲノム全体が網羅されたアレイ(タイリングアレイ)を使う必要がある
操作の概要とポイント
ハイブリダイゼーションの速度を解析ごとに合わせることが難しい
プローブcDNAは対照試料と対で用い(e.g. 発現のない組織とある組織)、両者の比較で結果を判断する
cDNAはそれぞれを別の蛍光色素(e.g. Cy3, Cy5)に分けて合成後、色調からターゲットDNAの発現がどちらの組織に偏っているかがわかる
両方で同等に発現していれば、中間の色になる
定量性は低いが、大量の遺伝子発現解析ができる
プローブにオリゴヌクレオチドを使う場合もある
RNA-Seq法
RNAを鋳型にして作製したcDNAをNGSで解析するアプローチをRNA-Seqという
目的
比較的長い配列で両鎖で決定する
e.g. 新規生物のRNA同定、バリアントRNAの検出
タグ数(既知配列(タグとみなす)の検出)を計測するために比較的短い配列を決定する
e.g. 参照ゲノム配列を利用できる生物の遺伝子発現やコピー数解析やタンパク質同士の相互作用の解析
操作の概要とポイント
RNAを抽出し、必要に応じてサイズ分画や精製を行う
成熟mRNAを対象にしたmRNA-SeqではポリA選択でmRNAを濃縮する
ポリA鎖をもたないncRNAなどを対象にする場合(e.g. miRNA-Seq)はrRNA除去操作を行う必要がある
cDNA合成、アダプター結合、サイズ選択などの操作を経てライブラリーを作製する
通常はRNA領域全体をカバーし、DNAのサイズも適当に短くできればよいので、cDNA合成はランダムプライマーで行う
ただmiRNAなどの小分子RNAや極端に断片化されたRNA試料の場合はcDNA合成でランダムプライマーが使えないため、RNA末端にあらかじめアダプターを連結する必要がある
NGSを用いて配列を決定し、また必要に応じて連結後に遺伝子を同定する
memo: ストランド特異的RNA-Seq
mRNA-Seqでは得られた配列と遺伝子の方向性との関係はわからないので、コード鎖に着目した解析が必要になるが、このための方法をStranded mRNA-Seqという
https://gyazo.com/84b14c09a2aa8897685d945d5ea91565
cDNA合成時に第2鎖のDNA合成でウラシルを取り込ませ、各末端に個別のアダプターを付け、ウラシルDNAグリコシラーゼで第2鎖cDNAを分解すると(発現鎖の特定の末端は特定のアダプターをもつため)発現特異的DNAが調製できる
応用
翻訳状態の解析
ポリソームのmRNA全体を対象にしたpolysome-Seq(翻訳効率がわかる)
リボソーム結合部位特定のためのリボソームプロファイリング
https://gyazo.com/8950cb3012ed349eb19d002796b03d2f
この解析により、これまで翻訳されないと考えられていた領域でも翻訳が起こっているという知見が蓄積している
RNA結合タンパク質の結合部位を同定する方法
ChIPのRNA版であるRIP-Seq(RIP:RNA immunoprecipitation)
そこからDNAの混在を除いた(UVによる架橋、RNAの特異的標識、電気泳動での精製を含む)CLIP-Seq(CLIP:UV crosslinking and immunoprecipitation)
トランスクリプトームを増幅する技術の導入や(e.g. SMART-Seq)、核酸にバーコード配列を付けて独自のシステムを使うこと(e.g. MARS-Seq)により、超微量RNAや1細胞からのRNA-Seqも可能になった
エキソーム解析
RNA-Seqをエキソン、とりわけ翻訳領域に特化して行うアプローチ
コストや解析の面でメリットが大きく、主に遺伝子変異、疾患遺伝子の同定に使われる
Column 転写速度を解析する「核run-onアッセイ」
転写の程度はRNAの定量やレポーターアッセイで解析されるが、実はこれらのアッセイは溜まった遺伝子産物の量を見ているにすぎない
核run-onアッセイ
転写速度(時間あたりのリボヌクレオチド取り込み数)を正しく知る方法の1つ
単離核では新たな転写は起きないがすでに起こっている転写は継続するという現象に基づく
核を単離した後、RI標識したRNA合成基質を加えて転写反応を行わせ、生じた放射性RNAの量から全体の転写速度を求める
特定の遺伝子について転写速度を知りたい場合は、適当なプローブDNAでハイブリダイゼーションを行う
転写速度はRNAポリメラーゼの伸張速度にはあまり依存せず、主に転写開始効率(具体的には鋳型DNA上のRNAポリメラーゼ数)に依存する
4) タンパク質の検出・同定
タンパク質の検出法
タンパク質の検出はSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で行う
SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)は負に荷電する界面活性剤で、タンパク質に付着する
SDS化タンパク質は陽極に動くが、移動速度が分子量が小さいほど速いため、タンパク質を分子量に従って分離できる
ブロッティング技術を取り入れ、特定タンパク質を検出する方法をウエスタンブロッティング(WB)、あるいは免疫ブロッティングという
SDS-PAGE後タンパク質をメンブランフィルターに移し、そこに抗体を作用させる
次に抗体に対する抗体(二次抗体)を作用させるが、二次酵素にはあらかじめ酵素を結合させてあるので(e.g. アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ)、適当な基質を作用させてその位置で発色あるいは発光させ、タンパク質位置を検出する
https://gyazo.com/73d6c25149e12b87b8d707af2c96f242
未知タンパク質の同定法
アミノ酸配列分析から遺伝子を同定することもできる
純粋なタンパク質が豊富に得られる場合はアミノ酸シークエンサーが有効である
通常、タンパク質のアミノ末端からエドマン分解によってアミノ酸を順次解離させ、そのアミノ酸を1個ずつ分析する
非精製標品の場合は、SDS-PAGEや二次元電気泳動で分離されたバンド中の微量タンパク質を、質量分析(MS)でアミノ酸配列解読する
タンパク質を酵素で断片化したものをMSで分け、個々の断片をさらに物理的に断片化した後で網羅的に質量分析し、分子量の差からパズルを解くようにしてアミノ酸配列を決めていく
MS解析はリン酸化などの化学修飾アミノ酸の検出も可能
二次元電気泳動
原理
タンパク質はそれぞれ固有の電荷と分子量をもつが、まずタンパク質に、pH勾配をもつ非変性ゲル中で電圧をかけて固有の等電点のpH位置まで移動させる
次に、分離した個々のタンパク質をSDS-PAGEで分子量に従って分離する
等電点と分子量の違いにより、タンパク質を二次元的(平面的)に分離する方法もある
https://gyazo.com/8bae271fd7bed81dfc455c7cca48eb25
操作の概要とポイント
1) 等電点電気泳動
細胞抽出液を、pH勾配(e.g. pH 3.5 ~10.0)をもつ棒状ゲルにのせて電圧をかけると、各タンパク質は自身の等電点pH部分まで移動するが、そこで正味の電荷がなくなる(正負の電荷が等しくなる)ために停止する
2) 泳動の終わったゲルを、平板状のSDS-ポリアクリルアミドゲルの上にのせてSDS-PAGEを行う
3) プロテオームの検出
ゲルの染色によってタンパク質を可視化し、スポット位置を識別する
数百〜千個の独立したスポットが識別できる
対照資料と比べることで、発現量の変化やリン酸化(分子量と電荷が変化する)などの状態がわかる
4) 各タンパク質を抽出し、ペプチドに分解後、断片を質量分析してアミノ酸配列を決定する
5) DNAデータベースをもとに該当遺伝子を探索し、タンパク質が何かを同定する
1つのタンパク質について連続する数残基を数カ所で決められれば、どのような遺伝子かがほぼわかる